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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1839号 判決 1973年1月24日

控訴人 星政範

被控訴人 昭和精機株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却し、訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする旨の判決を、被控訴代理人は、控訴棄却の判決をそれぞれ求めた。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の関係は、次のとおり付加し、かつ、「原告」とあるのを「被控訴人」と、「被告星」とあるのを「控訴人」とそれぞれ読み替えるほか、原判決書の事実欄に記載されているのと同じであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

一、競売の目的物たる動産が執行債務者の所有に属さない場合でも即時取得の対象となること(最判昭和四二年五月三〇日民集二一巻四号一〇一一頁)、また第三者所有の動産を競売した売得金を債権者に交付するについても、即時取得の成立が肯定されること(大判大正八年五月二六日民録二五輯九〇〇頁、大阪高判昭和三八年六月二一日判例タイムズ一四八号一〇五頁)は、いずれも判例の認めるところである。

二、執行債権者が執行官から競売売得金の交付を受けるのは、これを債務者所有の金銭として債権に充当するためであつて、執行官のその交付行為および効果は典型的な債権者の代理人と変るところがない。かように債権者が執行官から金銭の交付をうけるのは、実質的には債権者の債権に対する債務の弁済であつてその実質は変らない。それ故にこそ執行官は債務者に受領証を交付する等の手続をするのである(民訴法五三五条)。

三、そして、右交付にかかる金銭につき、前記のとおり即時取得が肯定される以上、その効果として善意取得者は原権利者に対して不当利得返還義務を負わないことは判例通説ともに是認するところである。即時取得の制度からすれば、利得の保有は依然として債権者たる控訴人に認められるべきであつて、これと矛盾する不当利得を認めるのは制度を破壊するものであり、論理が一貫しない。

四、また執行の実際の手続から考えると、強制執行による権利満足の場合は民訴法五三五条所定の手続を履む関係上、外形的に債務名義としての効力が失われることになる。もし不当利得の成立を認めて債権者の債権が消滅しないとすれば、この是正について煩わしい手続を要することになる。

したがつて、いずれにしても本件につき不当利得の成立を認めるべきではない。

理由

当裁判所は被控訴人の請求を正当であると判断するところ、その理由は、次のとおり付加・訂正し、かつ、「原告」とあるのを「被控訴人」と、「被告星」とあるのを「控訴人」とそれぞれ読み替えるほか、原判決書の理由欄に記載されているのと同じであるから、これを引用する。

原判決書七丁裏五行目冒頭より同七行目末尾までを削り、これに代えて、次の説示を付加する。

「債務者以外の第三者所有にかかる動産を対象とする強制執行がなされた結果、債権者が執行機関から適法に売得金の交付をうけた本件の場合には、右金員の受領には法律上の原因があるので不当利得は成立しない旨を主張する。しかしながら、債務者以外の第三者所有の動産につき強制執行をなし、その動産を競買人が即時取得し、債権者が売得金を執行機関から受領してこれを取得することと、債権者が売得金を受領するのが第三者との関係で不当利得を構成することとは理論上別個の問題であるところ、債権者は債務者に帰属する財産に対する執行によつて満足をうける権利を有するにとどまり、第三者に帰属する財産によつて満足をうける権利を有しないのであるから、たとえ債権者が第三者所有にかかる動産による売得金を受領しこれを取得したとしても、適法な弁済受領としての効力を生ずるいわれがない。第三者が右の執行により目的不動産の所有権を競買人のその即時取得により失うことは控訴人所論のとおりであり、本件でも前記第三者所有にかかる動産の競買人による右即時取得を否定すべき事情の主張・立証はない。かような場合、右第三者の損失によつて利得をうける者は債務者か、それとも債権者であるかが問題であるけれども、結局右のとおり弁済の効力が認められない以上、債権者が前記売得金を受領したままそれの利益を保有することは第三者との関係では、その損失において法律上の原因なくして利益をうけたことになるので、控訴人は右受領売得金相当額を右第三者に返還すべき義務があるといわねばならない。

このように、執行債権者がその受領にかかる右売得金を第三者に返還すべきであるとし、またはこれを返還したときは、いつたん弁済による満足をえた形態を備えた債務名義につき執行手続上右の形態を失わしめることは甚だ煩わしいことではあるが、それもやむをえないところであり、その故に反対の結論をとることは本末転倒であつて、とうてい是認できない。その他、右に反し不当利得の成立を否定すべきであるとする控訴人の所論は当裁判所の採らないところである。したがつて、控訴人の右主張は理由がないので、これを採用することができない。」

よつて、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、控訴費用は敗訴当事者たる控訴人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治 岡垣学 兼子徹夫)

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